大分県北部の海沿いの町・中津は、明治の鉄道唱歌に「西の博多か、東の中津」と歌われ、川沿いにはそれに見合う料亭が軒を連ねました。明治34年(1901年)創業の筑紫亭は、戦後も解体されずに残った唯一の一軒です。大正3年に建てられた主屋・離れ・塀は2003年に国の登録有形文化財となりました。離れは戦時中に将校クラブとなり、宇佐航空隊の隊員が特攻出撃の前夜を過ごし、床柱に残る刀疵は城山三郎『指揮官たちの特攻』に記されています。厨房を預かるのは昭和44年生まれの土生隆一氏。慶應義塾大学文学部を出て招福楼で5年修業し、2000年に帰郷。その手でミシュランガイド熊本・大分2018特別版の一つ星を獲得し、JR九州の観光列車「36ぷらす3」大分〜博多間の料理も担当しました。食べログ日本料理 WEST 百名店(2023)。
味わうもの
豊前海の鱧——店が「日本一の中津の鱧」と呼ぶ魚です。一寸に25筋ほど包丁を入れる骨切りは、店によれば江戸時代に中津の料理人が始めた技で、刃に身がつかないほど鮮度のよい鱧にだけ施されます。名物は鱧のしゃぶしゃぶ。紙鍋にくぐらせ、関西の梅肉ではなく、カツオと昆布の出汁に酒・味醂・醤油と地元のダイダイやカボスを合わせた自家製ポン酢でいただきます。このポン酢は2004年の「醤油名匠」で認められました。夜の懐石は¥14,000、¥19,000、¥25,000(税サ別)で、季節により豊前海のワタリガニ、関鯖、城下かれいが加わります。鱧しゃぶ付きのお昼膳は¥8,000(税サ込)、鱧のにぎり2貫が入ると¥10,000。食後には、江戸時代の中津藩の漢方医が考案した白大豆とキクラゲの醤油風味の蒸し菓子「巻蒸(けんちん)」が出ます。
予約の実際
店は完全予約制ですが、解禁日はありません。予約は日本語の電話 0979‑22‑3441——初めての方・お急ぎの方には店自身が電話を勧めています——、またはFAXと予約フォームで、フォームには後日店から電話で回答があり、その連絡をもって正式予約となります。2025年からは一休も昼夜のプランを販売しています。コースは予約時に決め、日程によっては希望に添えないこともあるため余裕をもった連絡を、と店は求めていますが、口コミには数日前でも取れたという声があります。当デスクが日本語で電話し、コース・部屋・時間をひとつの通話で確定させます。
細部が大事な店です。カードが使えるのは3つの懐石コースだけで、お昼膳は現金。変更・取消は前日までで、当日は有料。一休経由の予約は3日前から100%。一休では子供同伴不可の表示があり、希望があれば店に直接相談を。1名利用の方針は公表されていません。
こんな方に
福岡と別府のあいだで、物語のある建物で食事をしたい旅行者へ。そして京都で鱧を食べたことがあり、「うちの方が上」と主張する店で九州版を試したい方へ。



