ミシュランが広島を調査したとき、市内に三つ星の店はただ一軒だけだった。白島という静かな一角にある十四席のカウンター、なかしま哲夫氏と夫人が営む店である。氏は大阪の辻調理師専門学校で学び、大阪の割烹(客の目の前で料理する板前の店)で修業を積んだのち郷里へ戻り、2006年11月にこの店を開いた。ガイドは2013年の広島版で三つ星を与え、2018年版でも再び三つ星とし、以後この地方を再訪していない。星は乱されることなくそのまま残っている — それがこの店には似合っている。もとより喧騒を望んではいなかった。
供されるもの
会席のコースはただ一本、税・サービス料込みで¥24,250。市場とともに献立は変わる。評者がなにより挙げる、澄んだ椀のかに真薯。秋には松茸と鱧の土瓶蒸し、春には瀬戸内の鯛、締めには土鍋の御飯。器は江戸・大正の蒔絵の漆器、鶴と亀の絵柄 — 客の長寿を願う主人の静かな心遣いである。カウンターの内には図鑑とタブレットが置かれ、海外の客に魚を説明してくれる。英語は拙く、もてなしは厚い。帰りにはタクシーを呼んでくれる。
予約の実際
すべては算数である。カウンター8席と6人掛けの卓が1卓(卓は4名以上のみ)、18:30の一斉スタートが一回きり、日曜・祝日・GW・お盆・年末年始は休み。電話は日本語のみ、オンラインに出る席はごくわずか。そして但し書きが牙をむく — 2日前を切ってのキャンセルは料金が発生し、当日は全額。日本語で予約を入れ、前日に再確認し、18:30の厳密なスタートが新幹線の時刻に何を意味するかを知っているデスクなら、この失敗要因のすべてを一度に消せる。
最適な旅
広島—宮島の巡礼の夜を、昼と同じ高さに揃えたい旅行者へ。そして「二度の三つ星、¥24,250、夫婦営み」という一文が、世界のどこにも存在しないことの意味が分かる価値の目利きへ。



