松葉は1861年、南座のかたわらに開業しました。1882年、二代目・松野与三吉が、いまなお店の名を知らしめる一品を考案します。にしんそば——蕎麦の上ににしんを載せた一椀です。それから百六十年余りを経てなお、この椀は京都の暮らしに欠かせぬ存在であり続けています。店を取り囲む、まさにその芝居町から生まれた味なのです。
いただくもの
身欠きにしんを、じっくりと甘く、ほろりとほどけるまで炊き上げ、利尻昆布とその仲間で仕立てた出汁を張った蕎麦の上にのせます。保存のきく海の魚と、海のない都の麺の伝統との縁組——濃厚でありながら、どこか静か。にしんの脂が出汁へと溶けていきます。もともと芝居見物の客のために作られた一品であり、いまなお幕間に身を温めるための食べ物のように味わえます。
隣の芝居小屋
松葉は南座に寄り添うように建ち、その歴史は京都の舞台の律動と分かちがたく結ばれています。これは市井の文化としての蕎麦です。ここで生まれ、ここで食され、歌舞伎の季節と、年の瀬にこの界隈を埋め尽くす人波に結びついた一椀。芝居小屋のかたわらでこれを注文することは、この料理をまさにその始まりの場所で、始まりのままにいただくということなのです。
こんな方へ
試食コースを追いかけるより、正真正銘の歴史ある一椀を、しかるべき場所で味わいたい——そして、いまも日々使われ続けている伝統を愛する方へ。



