武士の身分が廃されたとき、渡辺大助という一人の元藩士は生業を必要としていた。ある歌舞伎役者が鴨を勧めた。彼が1872年、両国橋のたもとに興したこの店は、それ以来ただ一つのコースだけを供し続けてきた。合鴨――マガモと家鴨を掛け合わせ、養殖の鴨だけでは出ない深い味わいのために育てられた鴨――を炭火で熱した鉄鍋で焼き、すき焼きの常である甘いタレではなく、大根おろしと醤油でいただく。もはやほとんどどこも覚えていない、江戸流の読み解きである。
いただくもの
コースは六幕。前菜、鴨の澄んだお吸鍋、鴨の進肴、そして本編のすき焼き――皮つきの厚切り胸肉に、レバー、砂肝、ハツと続く、一羽まるごとの味わい。すべて着物姿の仲居が卓上で焼き、取り分け、野菜は鴨の脂で炒められる。締めは、この店の静かなる傑作――先に焼いたすべての滴りが残る、その同じ鉄鍋で炒める飯。そして水菓子。これで¥18,000、税もサービス料も込みである。谷崎潤一郎や小津安二郎もここで食し、陶芸家の十三代中里太郎右衛門はこの店をこよなく愛し、一家は彼のために座敷を一室とっておいたほどだった。
予約の現実
窓口は、名声から想像するより狭い。夜のみ、月曜から金曜、最終入店19:30。土曜は貸切に充てられ、日曜・祝日は休み、盆と年末年始も店を閉める。一部の席は食べログ経由でオンラインに開放されるが、この店の醍醐味である2〜6名の個室・約10室は、日本語の電話で決まる――人数、鴨のレバーの好き嫌い、どの部屋になるかまで、その電話の中で確かめられる。東京から日本語でかけるその一本こそが、仕事のすべてだ。12月――日本の忘年会シーズン――から先に埋まるので、早めに動きたい。
こんな方へ
両国(相撲部屋、江戸の博物館界隈、夕暮れの隅田川)を軸に一夜を組み立てるなら、あるいは一世紀半守り抜かれた一品だけの品書きこそ最も深い自信の表れだと解する方なら、ぜひ。



