ぼたんは、1897年(明治30年)からただ一品を供し続けています。鳥すき——鶏の すき焼きを、卓上の浅い鉄鍋で、備長炭の生きた火にかけて煮る。火力が安定し、 煙のほとんど出ない、あの硬く白い炭です。厨房にガスが入ったことは一度もあり ません。初代の建物は関東大震災で焼失。昭和4年(1929年)に建て直された木造 家屋は戦火をくぐり抜け、いまは東京都選定歴史的建造物です。屋号すら街の記憶 ——牡丹の花ではなく、かつてこの界隈を埋めた羅紗屋の「釦(ぼたん)」に由来 します。
いただくもの
品書きを吟味する必要はありません。どの客も同じコースです。鶏肉とつくね、 内臓、ねぎと豆腐を、店の割り下——すき焼き屋がそれぞれ看板として守る、甘み を含んだ醤油だれ——で、仲居さんが鍋の面倒を見ながら煮上げます。炭火は演出 ではなく仕組みそのもの。座敷に据えた火鉢が鉄鍋を下から均一に温め、ガスの 炎のように火力が跳ねたり落ちたりしない。締めは、店の流儀どおり、ご飯に卵。 果物で終わります。¥9,000、一つの値段、一つの流儀。
予約の実際
電話は日本語。店の公式ネット予約フォームも日本語のみ。英語ページはなく、 実在庫を扱う海外向けプラットフォームもありません。ただし、数字は味方です。 100席、すべて座敷、50名の大広間と6つの個室。この規模の店は、何か月も先まで 埋まりはしない。常識的な計画の範囲で電話を入れれば、平日の席は無理なく取れ ます。気をつけるのは個室の最少5名と、8月の休業だけ。まさに、東京のデスクが 存在する理由がここにあります。日本語の電話一本で、ぼたんの一番むずかしい 部分は「入口を見つけること」だけになる。
こんな方に
明治から設計し直されていない夕食を求める方に。そして組み合わせを。ぼたんの 隣は、1830年創業のあんこう料理店いせ源。二つの暖簾、一つの失われた都市、 世紀と世紀のあいだを歩いて十分。



