ぼたんは、およそ1897年からただ一品を供し続けています。とりすき、すなわち鶏の すき焼きを、ガスを使わず本物の炭火にかけた鉄鍋で、卓上で仕上げる。関東大震災の 火災も戦火もくぐり抜けた木造家屋の中で。部屋は畳敷き、火鉢は年代物、味の作り方は 変わらない。ここは、一世紀前とまったく同じように夕餉が進む、東京に残された数少ない 場所のひとつです。
いただくもの
鶏肉、そのつくねと内臓、ねぎと豆腐を、店の甘い割り下で、鍋を見守る仲居さんの手に よって煮上げ、そして——伝統が求めるとおり——ご飯にのせた卵で締めくくります。炭火が 肝心です。上下から同時に火を通し、ほのかな煙こそがこの店の証。
この一角について
神田須田町は、秋葉原から二筋離れた、観光の波に呑み込まれなかった保存地区。ぼたんの 隣は、1830年創業のあんこう料理店、いせ源です。この一角そのものが、江戸東京の食欲を 今に伝える博物館であり、十分もあれば歩いてまわれます。
こんな方に
東京の歴史について読むのではなく、その中で食事をしてみたい——そんな方にこそ。ある夜は ぼたんで炭火の儀式を、別の夜はいせ源で冬のあんこう鍋を。二つの暖簾は、同じ失われた 都市に向かって開いています。



