小林宏輔は、東京でプロのドラマーとしての道を追いかけていた最中に、 父が倒れた。彼は新潟市の先にある小さな城下町・新発田の実家へ戻り、 創業から八十年に迫る三代目の町の鮨屋を継ぎ、この店を決定づける 一つの決断を下す。供するものの99%を新潟の海と土から賄う。地元の 船が確実に水揚げするものだけを仕入れる、だから雲丹は出さない —— このカウンターを世に知らしめた「不在」である。「昔の江戸の職人 たちは、素材が限られていたからこそ技を編み出した」と彼は言う。 「その精神を、自分の海で貫きたかった」。ミシュランは2020年にこの カウンターへ星を授け、ジャパンタイムズは2024年に「デスティネー ション・レストラン」に選んだ。
味わうもの
佐渡の甘い南蛮海老を一晩かけて風干しし、殻から挽いた粉を纏わせる。 喉黒 —— 日本海で最も脂の乗った魚 —— は自らの骨でとった出汁で温める。 穴子には1954年から注ぎ足し続けるタレを塗り重ねる。新発田の田で 育った米は鉄の釜で炊き上げる。夜はおまかせ一本、¥23,000(税別)。 新潟店の木・金の昼には握りのみのコース¥13,000があり、これが静かな 入口となる。
予約の実際
十席のカウンター、着席は一斉 —— しかも2024年の創業70周年の拡張 以来、二つの町に分かれている。新発田の本店は週末のみ、新しい新潟 市のカウンターは平日を受け持つ。予約は日本の高級店予約プラット フォーム「OMAKASE」のオンライン受付のみで、店舗ページも二つに 分かれる。どちらの町か、どの曜日か、決められた開始時刻のどれが 旅程に合うか —— まずこのパズルを解かねばならず、海外からの計画の 大半はこのカレンダーの前で潰える。その仕分けこそが当デスクの仕事 だ。両店の予約状況を見張り、プラットフォームの手続きを引き受け、 細部は日本語で店と確認する。
こんな方へ
東京を巡り尽くし、握りという形でテロワールが何を意味するかを 味わいたい方へ。あるいは「雲丹を出さない一つ星」と耳にして、その 理由を知らずにはいられない方へ。



