小林光介は、東京でプロのドラマーとしての道を追いかけていた最中に、 父が倒れた。彼は新発田の実家へ戻り、創業70年の町の鮨屋を継ぎ、 この店を決定づける一つの決断を下す。供するものの99%を新潟産で 賄い、地元の船が確実に水揚げするものだけを握る、だから雲丹は出さない。 「昔の江戸の職人たちは、素材が限られていたからこそ技を編み出した」 と彼は言う。「その精神を、自分の海で貫きたかった」。ミシュランは 2020年にこのカウンターへ星を授け、食べログアワードはシルバーを、 ジャパンタイムズは2024年に「デスティネーション・レストラン」に 選んだ。
味わうもの
佐渡の甘い南蛮海老を一晩かけて風干しし、殻から挽いた粉を纏わせる。 喉黒は自らの骨でとった出汁で温める。穴子には1954年から継ぎ足し 続けるタレを塗り重ねる。新発田の田で育った米は鉄の釜で炊き上げる。 それは、まったく新潟の語彙だけで語られる江戸前の文法であり —— 色褪せていく城下町を、世界が飛行機で訪れる地へと変えた。
その土地を巡る
ここは完璧な冬の周遊路の要となる。エメラルド色に輝き硫黄を豊かに 含む月岡温泉が二十分の距離に。江戸期の商家に千本の塩引き鮭が吊る される村上。菊水をはじめとするこの地の酒蔵。三羽の鯱を戴く屋根を もつ、日本100名城のひとつ新発田城の天守。12月 —— 鮭の季節、蟹の 季節、雪化粧の城 —— こそが通の選ぶ時季だ。
こんな方へ
東京を巡り尽くし、握りという形でテロワールが何を意味するかを 味わいたい方へ。あるいは「雲丹を出さない一つ星」と耳にして、その 理由を知らずにはいられない方へ。



