広重の『東海道五十三次』の神奈川の図を開くと、海を見下ろす崖の上に茶屋が 並んでいる。田中家はその一軒であり、1863年(文久三年)に料亭 — 個室と仲居と 座敷の遊びを備えた宴席の家 — として建て直され、以来同じ一家が営んできた。 旧神奈川宿に残る最後の料理屋であり、坂本龍馬の妻・おりょうが1870年代、 勝海舟の紹介で仲居として働いた家でもある。月琴と英語で外国人客をもてなした という。初代内閣総理大臣・伊藤博文が席を持ち、夏目漱石も訪れた。海は埋め 立てられて見えなくなったが、駅から上る石段は、いまも旧東海道そのものの 勾配を刻んでいる。
何を食べるか
月替わりの会席を、専属の仲居がつく個室の座敷で。夜は¥20,000より、昼の会席は ¥14,000より、平日昼には五品の「神奈川宿御膳」¥7,600という静かな入口もある。 季節には常連が目当てにする名物が並ぶ — 雑炊で締めるうなぎの鍋、すっぽん、 冬の天然クエ。五代目の女将はいまも写真を携えて各部屋を回り、家の歴史を 自ら語る。そして事前の相談があれば、横浜芸者の座敷を整えてくれる — この地方で、芸者文化が再現ではなく現役の宴として残る数少ない食卓である。
予約の現実
完全予約制、二名様より、当日は不可。夜の席は18:30からの案内となる。電話は 日本語で、本当の仕事は日付ではなく仕様を詰めることだ。七つの部屋のどれに するか、どのコースか、女将の歴史語りや芸者の座敷を組むのか、予算はどうか。 それはフォームではなく会話である — 当デスクが日本語で交わし、出来上がった 一夜としてお渡しする類いの会話だ。
こんな方に
歴史を旅する方、京都の一見お断りの壁を越えずに芸者の座敷を体験したい方、 そして横浜の夜に主役が要る方に — 夕暮れの港、そのあと旧街道の上の夕食を。



