鹿児島は、日本でもっとも豊かで、もっとも一風変わった海のひとつに面している。活火山の下に広がる暖流の湾は、東京の鮨職人がまず扱うことのない魚種の宝庫だ。1989年以来、野村真司はただひとつの原則のもとに八席のカウンターを築いてきた。鹿児島の魚のみを使う。しかも市場ではなく、彼のために漁をする漁師から直接仕入れ、魚種ごと、その日ごとに彼が算段する段取りで熟成させ、包丁を入れ、温度を整える。
味わうもの
水深250メートルから揚がる深海の海老。宝石のような値がつく希少な鯛。出水の鯵、カンパチ、そして首折れ鯖 — 野村が生まれた島、屋久島の「首を折った」鯖。旨みが増すまで寝かせた障泥烏賊(「鮨は烏賊で決まる」と彼は言う)。各席には自家製の調味料がずらりと並ぶ — 自家醸造の醤油、ポン酢、黒胡麻、天日塩 — そして一貫ごとにどれを使うかを彼が教えてくれる。常連はこの夜ごとの一幕をのむら劇場と呼ぶ。
東京から飛んで来る
東京の食通たちは、この夕餉のためだけに鹿児島へ飛び、翌朝には帰路につく。八席、夜のみ、そして県外へは決して出ない魚。現金のみという構えが、この店がこれまで自らを語る必要をほとんど持たずにきたことを物語る。
店を取り巻く土地
これは南国の旅程の核となる鮨の一夜だ。湾の向こうで煙をたなびかせる桜島、武家の庭園・仙巌園、指宿の砂蒸し温泉、四方に点在する焼酎の蔵、そして高速船でひとっ飛びの屋久島の杉の森 — この主人の物語が始まった場所。
こんな方に
銀座のカウンターを巡り尽くし、日本の地方の海が織りなす味を知りたいと願う鮨の愛好家へ。ひとつの湾を握りへと翻訳し続けて三十五年、その男自らの語りとともに。



