蔵前はかつての玩具問屋街が、東京のクラフトの街として生まれ変わった一角だ。チョコレートの焙煎所、ノートのアトリエ、真剣にコーヒーと向き合う店。だがこの街の食の要は、そうした職人たちよりも古い。すぎ田は1977年に雷門近くで創業し、1991年からこの地に腰を据えてきた。二代目の主人・佐藤光郎が、磨き込まれた銅鍋二丁で豚肉を揚げる — 強火で衣を締め、弱火で中心をじっくり火入れし、再び強火で「油を油で切る」。ミシュランのビブグルマンにはおよそ十年連続で掲載され、東京のとんかつ愛好家たちは、この店を街の定番の一軒に数えている。
味わうもの
薄く、砕けるような衣をまとったロース(肩ロース)かつ。パン粉は近所にあるペリカン — 1942年創業のカルト的な名パン屋 — のもの。豚肉は信頼する千葉の農家から目利きで選び、流行りの厚切りではなく、あえて昔ながらの厚みに仕立てる。まずは塩で、と主人はすすめる。次に醤油、そしてソース。常連の秘密は豚肉ソテーだ。ブランデーとウイスキーでフランベした一皿で、これを目当てに街を横断してくる者もいる。味噌汁とご飯は別注文 — 本格的なとんかつ屋の流儀である。
のれんの視点
「近所のとんかつ屋です」と主人は言う。「でも、ごちそうと呼ばれたい」。この一言に蔵前という街が凝縮されている。この店を軸に、王道の午後を組み立てよう。隅田川沿いのコーヒー店や革製品の店を巡り、カウンターで銅鍋を眺めながらかつを味わい、そして川上へ十五分ほど歩けば、提灯に灯がともる頃の浅草寺にたどり着く。
こんな方へ
日本の日常の食が、完璧に仕上げられたとき、その儀礼をも凌駕しうる — そう感じている方へ。蔵前の工房を目当てに訪れる、デザイン感度の高い旅人にもふさわしい一軒だ。



