かつて吉原(江戸公認の遊郭)の大門の外には、桜なべを供する店が二十軒あまり並んでいました。「桜なべ」とは、馬肉をすき焼き風に煮込んだ、浮世のスタミナ料理。今もその一軒が残っています。中江は1905年(明治38年)創業、一家四代にわたって受け継がれ、1924年に宮大工が建てた木造家屋は、いまや国の登録有形文化財となっています。
味わうもの
馬肉は、牛肉よりも赤身で澄んだ味わい。店専用の牧場で育てられた成熟馬の肉を、醤油と味噌の割下で浅く手早く煮て、桜色のミディアムレアで引き上げ、生卵にくぐらせていただきます。タルタルは太郎太郎ユッケと呼ばれます。常連だった芸術家・岡本太郎が、フランスで食べた馬肉のタルタルを再現してほしいと三代目に頼んだのが始まりで、料理には今もその名が冠されています。締めの一手は、甘い割下をまとった飯に卵を絡めたもの。店自身が「一番のごちそう」と言う一皿です。
暖簾からの視点
これは私たちのコレクションの中で最も予約の取りやすい卓であり、そして最も物語に満ちた一室でもあります。ここで予約するのは希少性ではなく、背景です。大門、見返り柳、そして最後に残った一軒。歴史を携えて訪れれば(ご主人自ら旧花街の街歩きツアーを案内しています)、この夕餉は、味わえる江戸の一章となります。
こんな方へ
浅草と旧・北エリア(一葉記念館、都電の路線、ガイドブックが素通りする路地)を組み合わせる、文化を第一に旅する方へ。そして「浮世のスタミナ料理」とは実際どんなものだったのか、その答えに好奇心をそそられるすべての方へ。



