吉原 — 江戸の塀に囲まれた公認の遊里 — の大門の外には、かつて二十軒を超える 桜なべ屋が並んでいた。浅い鉄鍋で馬肉をすき焼き風に煮る、遊里に生きた男たち の精のつく料理である。残っているのは一軒。1905年創業、同じ一家の四代目が営む 中江は、関東大震災の後、1924年に宮大工の手で建てられた木造の店舗に今もあり、 国の登録有形文化財となっている。帰る客が遊里を振り返ったという「見返り柳」は、 今も角に立つ。
何を食べるか
馬肉 — 牛より脂が少なく澄んだ味わいで、店のために育てられた成馬のもの — を、 甘い味噌醤油の割下で浅く手早く煮て、ばら色のミディアムレアで引き上げ、 すき焼きの流儀で生卵にくぐらせる。ユッケには名前がある。太郎太郎ユッケ — 常連だった芸術家・岡本太郎が、フランスで食べた馬肉のタルタルを三代目に 再現してほしいと頼んだ一品だ。締めは、店自身が一番の品と呼ぶもの — 鍋に 残った割下に卵をとじ、飯にかける。夜のコースは¥12,000と¥17,000。単品の鍋に 飯と小鉢を添えれば、その何分の一かで済む。
予約の現実
このリストでは珍しく、オンラインの扉が実際に機能する一軒。中江は電話と自店の 予約フォームで席を取ることができ、火〜金の夜は無理なく収まる。落とし穴は ランチだ — 土日祝のみ、一日30食限定で、売り切れるため店自身が事前予約を 勧めている。日本語の電話一本が本当に買ってくれるのは、席の指定と文脈である。 掘りごたつの席、ふさわしいコース、そして着席の前に旧遊里 — 大門跡、柳、 遊女たちの墓所 — を歩くための時間配分だ。
こんな方に
浅草と「北の下町」 — 一葉記念館、都電の線路、ガイドブックが飛ばす路地 — を 組み合わせたい方、そして「浮世の精のつく飯」が実際に何を意味したのかを、 その言葉がまだ現実を指している唯一の部屋で味わいたい方に。



