1923年の火災が焼き払い、その後の戦火も免れた神田の一角。1930年に建て直された黒い木造の家(現在は登録有形文化財)が、ただ一つの料理を供する。深海魚のあんこうを、天保年間(1830年)から東京でこの料理を定義してきた甘辛い割り下の鍋で。いせ源は都内に残る唯一のあんこう専門店であり、冬になると、その座敷は日本の偉大な季節体験の一つとなる。
いただくもの
あんこうは伝統の吊るし切りでさばかれ、鍋のなかに一尾を余さず供される — 締まった身、絹のような皮、そしてあん肝、食通が海のフォアグラと呼ぶ肝だ。締めには出汁を米にかけていただく。当店はあんこうを通年で供するが(都内に残る唯一の専門店ゆえ)、鍋がもっとも滋味を深めるのは寒い季節であり、夏には夏なりの軽やかなコースが用意される。
この通りにあるもの
いせ源は秋葉原の観光の流れから一本入った通りに立ち、地元の人々が巡礼のように大切にする古い東京の一角にある — 隣は炭火の鶏すき焼きの店、ぼたんだ。江戸の生き残り二軒が、一つの角に。
こんなときに
ガイドブックの一皿ではなく、その季節ならではの食事を求める冬の旅人へ。二晩にわたって隣のぼたんと組み合わせれば、戦前の東京の食文化がもっともよく保存された一角を、余すことなく味わえる。



