1873年、熱田のある料理屋は配達の悩みを抱えていました。塗りの器が道中でひび割れてしまうのです。その答えは、幾人分かを一つの木のおひつにまとめ、焼いた鰻を細かく刻んでご飯になじませること —— この工夫がひつまぶしとなり、一世紀半を経た今も、あつた蓬莱軒はその名を登録商標として保持しています。備長炭で鰻を焼き上げながら塗り重ねるタレは、代々継ぎ足されてきたもの。仕込み直されたことも、外へ出たこともありません。
味わい方
一人前は4,600円前後。しゃもじと空の茶碗を添えた木のおひつで供され、三度に分けて楽しむよう盛られています。一膳目は鰻とご飯をそのまま —— タレと炭の香ばしさだけに語らせます。二膳目は薬味を添えて —— 葱、山葵、刻み海苔をおひつのなかで混ぜ合わせます。三膳目は同じくして出汁をたっぷりと注ぎ、米がほどけてご飯と汁物のあわいへ。鰻を軸に組み立てられた会席は、おひつ一杯の上をゆく価格帯です。
予約の実際
お席の予約は、いかなる価格帯でも存在しません。本店は当日の記帳制 —— 店頭で名前と人数を伝えると、入店できるおおよその時間帯を案内されます。週末の昼は2時間前後、平日の夜はより短めが目安です。電話(日本語のみ)が受け付けるのは、個室での会席料理のご予約だけで、3日前までに申し込みます。定休日は水曜と第2・第4木曜、祝日にあたる場合は営業。旅程と休業日の照合、記帳に合わせた到着時刻の設計、そして店が実際に受ける会席の電話 —— まさにこの切り分けこそ、東京のデスクがほどいて差し上げる部分です。
こんな方におすすめ
名古屋で午後のひとときを過ごす旅人へ —— 熱田神宮はすぐそこ、ここは旧東海道五十三次でもっとも賑わった宿場・宮宿の地です。一皿を模倣ではなくその源で味わいたい方、他所の写しを予約するよりも、ひつまぶしが始まった場所に並ぶことを選ぶ方に。



