木造三階建ての建物は、かつて下町東京の空を彩る風景でした。しかし 1923年の大震災と戦争が、そのほとんどを消し去りました。はん亭は、 そうした数少ない生き残りの一棟に暖簾を掲げています。1917年築の 下駄商の店舗で、いまや国の登録有形文化財。1970年代、まずこの建物に 惚れ込み、そのなかで暮らすために店を生み出した一人の料理人によって 救われました。
この家屋が建ったのは1917年。下駄の爪皮——木の下駄のつま先に付ける 小さな雨よけ——を商う問屋の店舗としてでした。同じ間口の上に木造の 階を三層重ねた造りは、いまの防火基準では二度と許されない形です。 1923年の関東大震災に耐え、1945年の空襲の火をくぐり抜け、1999年には 国の登録有形文化財に登録されました。隣の蔵はさらに古く、1907年築。 串揚げがここで揚げられるようになって、もうすぐ半世紀——いまや店と 建築は、同じひとつのものになっています。
いただくもの
品書きはありません。串揚げ — パン粉をまとい、四種の油を配合して ほとんど重さを感じさせないほど軽やかに揚げた串 — が6本ずつ運ばれて きます。海老と大葉、蓮根、季節の魚、和牛、それぞれに専用のたれが 添えられます。最初の12本を終えたら、あとはただ「続ける」か「止める」 と告げるだけ。串の合間には、揚げ物屋の古き流儀で箸を休ませてくれ ます。気の利いた箸休めが二品、味噌を添えた生野菜のスティック、 そしてざく切りの瑞々しいキャベツ——12本が軽やかに感じられ、18本 すら十分に思えてくる。そんなリズムが組まれているのです。ランチも 同じ作法を、より短く、より手頃な値段で味わえ ます。ぜひ蔵席をご所望ください。隣接する1907年築の蔵のなかにある 座敷です。
訪れ方
予約は——このリストでは珍しいことに——いちばん簡単な部分です。 はん亭は英語対応のオンライン予約ページと電話で席を用意し、お一人様 も気兼ねなく迎えてくれます。求められるのは時間枠を守ることだけ。 着席は時間厳守で、揚げ始まるのはあなたが座ってからです。ディナーは 最初の12本で¥6,600。多くのお客様は6本単位で一、二度追加し、ビール や日本酒を合わせると、ひと晩でおよそ¥9,000〜12,000に落ち着きます。 平日の夜はたいてい数日前の予約で間に合いますが、週末——そして根津 神社のつつじが東京中の人をこの街に呼び込む4月下旬——はお早めに。 個室は二室。2〜4名のテーブル席と6〜8名の座敷が、ご家族の晩餐を 受け止めます。
暖簾の眼
はん亭は、私たちのコレクションへのもっとも穏やかな入り口です。英語 でのオンライン予約が可能で、お子様連れも歓迎、ディナーは¥6,600。 ここで本当に予約しているのは、この建築 — そして、この街そのものです。 根津は、いまも生きる古き東京の首府。神社のつつじのトンネル、谷中の 路地と墓地の桜、本郷の学生街の古書店。その散策の締めくくりを、この 店の二階で、行灯に灯がともるころに。
こんな方へ
来日一週目、儀式ばらずに情緒を味わいたい旅人、ご家族連れ、そして 建築を愛する方へ。ここは、保存活動家たちが指し示すその建物のなかで いただく晩餐です。



