たかむらは、東京にはもう存在しない系譜を受け継いでいる。髙村宏樹氏は、会席以前の江戸の食文化を伝える「江戸料理」最後の名店のひとつ、目白・太古八で、弱冠二十四歳にして板長を務めた。1999年に郷里の秋田へ戻ると、その仕事を北へ携え、多くの旅程が素通りしてしまう県の食材に注ぎ込んだ。十三席、旧川端花街にほど近い看板のない扉 — そして会員とその同伴者にのみ開かれる予約帳。
供されるもの
およそ十一品のおまかせ。江戸前の洗練を湛えながら、紛れもなく北国の料理だ。秋田が誇る地鶏・比内地鶏は絹のように滑らかなレバーのパテなどに姿を変え、残りは秋田の四季が満たしてゆく。締めを飾るのは店の発明「たかむら麺」— 地元の海藻ギバサを練り込み、主人自らが生み出したもちもちとした独自の麺で、他のどこにも存在しない一品である。2016年には農林水産省より「料理マスターズ」に認定されたが、店そのものは、そのすべてについて意図して寡黙なままだ。
予約の実情
飛び込みはなく、ウェブの予約フォームもない。店の公式ページが仕組みを明記している。予約には会員番号と名前、あるいは既存会員の紹介が必要で、電話がつながるのは9:00〜12:00と17:00〜21:30の二つの時間帯、日本語のみ。キャンセル規定は2日前から効き始める。海外の旅行者にとって、これは三重に施錠された扉である — 人脈、言語、そして時計。関係を保ち、その時間帯の内側から電話をかけられる東京のデスクこそ、文字どおり、この扉が開くために設えられた仕組みだ。
こんな方へ
角館、温泉郷、冬の祭り — 東北を巡る旅程を組むなら、秋田でただ一つ、消えた東京の江戸の台所へとあなたをつなぐ食卓へ。その最後の一軒で修業した料理人が、いまも鍋の前に立っている。



