松籟庵は、太平洋戦争前夜に内閣総理大臣を務めた近衞文麿の別邸だった建物を構えとし、保津川を見下ろす亀山公園の斜面に佇んでいます。いわゆる住所らしい住所はありません。渡月橋の人波を離れ、川沿いを上流へ歩き、木立の坂道を登ると、ようやく門が現れます。2004年からこの家を営むのは、現役の書家・水墨画家である小林芙蓉。部屋を飾る書、食事の運び、そして静けさを守るために中学生未満のお子様を丁重にお断りするという決まりに至るまで、すべてに女将の手が行き届いています。
お召し上がりいただくもの
豆腐懐石 — 日本の正式なコース料理である懐石を、ただ一つの食材を軸に組み直したものです。中心となるのは、食卓でゆっくりと炊き上げる湯豆腐。使うのは森嘉の嵯峨豆腐、京都の料理人たちがこの様式の代名詞として名を挙げる、この土地の豆腐屋のものです。匙が要るほど柔らかく、味付けではなく大豆そのものの甘みで食べさせます。まわりには揚げ出し豆腐、季節の八寸、月ごとに変わる野菜料理。昼のコースは5,500円から8,000円、夜は9,000円から12,000円で、いずれも完全なベジタリアンコースが用意されています。それが「特別対応」ではなく厨房の母国語である懐石の家は、京都でも数えるほどです。
予約の実情
電話、日本語、それのみ — この家はインターネット予約を一切受け付けていません。昼は座敷に余裕があれば飛び込みも吸収できますが、夜は事前予約でしか存在せず、締め切りは厳格に前日の17時。暦にもご注意を — 水曜は定休、ただしゴールデンウィークと、渓谷を彩る紅葉こそが主役となる11月は営業します。海外からの旅行者にとって、これは厄介な部類の店です。どのプラットフォームにも載らず、記入フォームもなく、京都の営業時間内に日本語で鳴らすべき電話が一本あるだけ。それこそが、まさに私たちのデスクが掛ける電話です。コース、空いていれば川側の部屋、そして時間を確認し、整った予約をお手元にお渡しします。
こんな方へ
京都での一夜を、いっさいの華美なしに過ごしたい方へ。流れる水の上の座敷、ひとつの食材を信じ切る食事、そして京都随一の混雑を誇る景勝地を、その最も静かな部屋から味わう体験。ベジタリアンの方は、まずここをご予約ください。



