店名の意味は「壺の中の世界」。小さな壺の中に理想郷が広がっていたという、中国の隠者にまつわる古い故事に由来します。まさに言い得て妙。岩本光治氏は多感な修業時代を京都懐石の名門・嵐山吉兆で過ごし、伝説の主人・湯木貞一のもとで研鑽を積みました。1985年、氏は徳島の山あいを流れる川沿いの村・佐那河内へ帰郷。生家の古い宿を建て直し、以来四十年にわたり、園瀬川のほとりで吉兆の教えをその本質へと磨き上げてきました。
お召し上がりいただくもの
氏の信条は「出過ぎない美味しさ」。昆布と塩で仕立てた出汁、醤油は一滴ずつ、その料理を評論家は水墨画になぞらえます。澄みきって澄んだ響きのある出汁に浮かぶ蟹真薯の椀は、常連客が全国から足を運ぶ一品です。夏にはみずから釣り上げた鮎を供します。氏は川ごとに異なる鮎の味わいを見分けられるほど。自らの手で釣った天然の鰻は、締めの茶飯へと姿を変えます。秋は松茸、冬は山の鹿肉。ゴ・エ・ミヨでは五年連続で三つのトック(コック帽)を保ち続けています。
食事ではなく、遠征
電車もバスもタクシー乗り場もない村。日本の食通でさえこの訪問を一つの遠征として捉えます。そしてそれこそがこの店の醍醐味なのです。たどり着くにふさわしい労を重ねて、徳島の山中に佇む個室づくりの一軒へと到着する。予約は容易な半分にすぎず、運転手と時間の段取りこそが本当の手配なのです。
周辺の見どころ
徳島はその旅路に応えてくれます。世界最大級の渦潮が渦巻く鳴門(大潮の時期が見頃)、目を見張る大塚国際美術館、祖谷渓のかずら橋、そして「ジャパンブルー」の故郷での藍染め工房。八月半ばには、日本最大の舞踊祭・阿波おどりが街を包み込みます。
こんな方に
京都懐石の名品を味わい尽くし、その継承者の一人が自らの山を舞台に何を成すのかを口にしてみたい懐石の愛好家。そして、窓の外に川の流れる三つ星級の夕餉を好む旅人に。



