ネオンと看板が運河を照らす、道頓堀のもっとも喧騒に満ちた一角。そこで一軒の店だけが声をひそめている。柳の木、提灯、そして暖簾。道頓堀 今井は1946年にこの地で開店したが、その血筋はさらに遡る。1838年、この通りが大阪の芝居町であった時代に創業した芝居茶屋「稲竹」にまで。暖簾をくぐれば、喧騒はすっと遠のく。
いただくもの
看板の一杯はきつねうどん——やわらかな小麦の麺に、甘く炊いた油揚げを一枚のせて——であり、忙しい日には厨房から六百杯ほどが送り出されていく。その魂は出汁にある。北海道の天然昆布を、九州のさばぶし・いわしぶしとともに引き、鍋に一日寝かせておくのではなく、必要に応じて都度炊き上げる。淡い黄金色をたたえ、ほとんど澄み切ったその一杯こそ、大阪の人々が今井を語るとき、他の者が神社を語るように口にする理由なのだ。
きつねうどんは約830円——これほど語り草になる一杯としては破格の値段だ。品書きの他の顔ぶれも負けていない。天ぷらうどん、そば、しっかりとした親子丼、そして寒い季節には常連が心待ちにする季節の椀。何を選んでも、出汁は最後まで飲み干すこと。それこそがこの店の核心なのだから。
本店と、その他の店
今井の名は方々へ広がっている。阪急うめだ本店をはじめ百貨店のレストラン街に支店があり、出汁やうどんの詰め合わせは関西一円で贈答品として売られている。だが「本店」はこの一軒だ。茶屋の時代とうどんの時代のあいだ、一家はこの地で楽器店を長く営んでいた。1945年の空襲で街が焼けたのち、1946年、一家は出汁の鍋を中心に店を建て直した。よそでこの名を見かけたことがあるなら、その始まりは柳の下のこの入口にある。
訪れ方
予約は一切受け付けていない——行列こそがこの店の仕組みである。開店は11:00、通し営業で22:00まで(ラストオーダー21:30)。コツは時間帯にある。開店直後に来るか、列が消える昼下がりにふらりと入るか。昼のピークと夜の混雑時は歩道で15〜30分ほど並ぶが、列は着実に進む。定休日は水曜(祝日にあたる場合は営業)。カードと電子マネーは使えるが、QRコード決済だけは不可。行き方も簡単だ。本店は道頓堀のメインストリートの中ほど、Osaka Metroなんば駅から徒歩数分——戎橋のたもとに出て、ネオンが柳に変わるまで運河沿いを東へ歩けばいい。
静かな入口
その対比こそが、この店の体験である。外は道頓堀の絢爛たる祝祭、内は畳敷きの静謐な座敷と昆布出汁の香り。店先の柳と提灯は、それ自体がひとつの目印となった——数年ごとに姿を変えるこの通りにおける、古き大阪の動かぬ一点として。行列の中でさえ、待つことを厭う者はいないように見える——柳が列に影を落とし、その先には静かな座敷が待っているのだから。
こんなときに
旅の半ばで道頓堀の華やかさに少し疲れを覚え、ネオンが灯るよりずっと前から変わらぬやり方で作られてきた、温かく実直な一杯を求めるとき。



