笹森通彰氏は2003年、多くの料理人が口にするだけの信念を胸にイタリアから帰国した。イタリア料理の本質が素材にあるのなら、その素材そのものを作ればいい、と。それから二十年。弘前にある二十席のオステリアでは、自ら熟成させた生ハム、ジャージー牛の乳から引き上げたブラータ、自身の畑で育てた野菜、そして岩木山の斜面に広がる自家農園のワインが供される。りんごの里で、彼はピエモンテの王たる葡萄ネッビオーロを育てている。年に八千本、三つ星ワイナリー賞、ゴ・エ・ミヨのトック四年連続獲得、そして料理マスターズの金賞メダル。
味わうもの
驚きは素材の出自にある、およそ八皿のおまかせ。生イカと青森のウニを合わせた冷製スパゲッティ、一切れ残らず自家製のシャルキュトリーの盛り合わせ、卸業者の手を一度も経ていないチーズ。彼は信念として日本の調味料を拒む——「イタリアの味を濁らせたくないんです」。それが逆説的に、この店を日本でもっとも純度の高いイタリアの食卓のひとつにしている。
のれんの視点
弘前は北国でもっとも過小評価された寄り道の地だ。日本一名高い桜の堀を擁する城、地平線まで続くりんご畑、世界遺産・白神山地のブナ原生林への玄関口。食の旅でここを組み込む者はいない——だからこそ、あなたが行くべきなのだ。ぶどう畑とりんご畑がそろって最盛期を迎える収穫期(9月〜10月)は、通のための最良の窓である。
こんな方に
ワインを第一に旅する人、雪国の北緯40度でテロワールが何を意味するのかに興味を抱くイタリア好き、そして遠野や鶴岡をめぐる東北の周遊路を組み立てるすべての人へ。



