金沢には独自のおでんがあり、赤玉は1927年からそれを供してきた。醤油で色濃く仕上げる東京のおでんと違い、この出汁は昆布と煮干しから引かれ、色ではなく控えめな塩梅で調えられて、あくまで淡く澄んでいる。創業からおよそ一世紀、この店はほとんど地元流おでんの代名詞となっている。
味わうもの
串や種は、その淡い出汁のなかで静かに煮込まれる。出汁をたっぷりと吸い込む麩の輪「車麩」が、鍋の定番の顔ぶれとともに並ぶ。冬の目玉は「かにめん」。香箱蟹の身と卵を甲羅に詰め戻して出汁に据えた一品で、雌のズワイガニ(香箱蟹)が旬を迎える寒い季節にしか登場しない。ここではおでんが、ファストフードではなく郷土料理として扱われている。
出汁が澄んでいる理由
醤油を使わない出汁こそが金沢おでんそのものの個性であり、赤玉は街の他の鍋が現れては消えていくなかで、代を超えてそれを守り続けてきた。仕上がりは旅行者が思い描くおでんよりも軽やかで繊細だ。屋台の煮込みというよりは澄んだ煮物の一皿に近く、まさにそこにこの料理の要諦がある。
こんな方へ
金沢に一夜を過ごす旅行者へ。庭園や金箔工房が店じまいをした後、片町の路地の近くで、あらたまった夕食よりも温かな地元のカウンターを求める方に。そして冬には、この季節を象徴する蟹を味わいたい方に。



