大阪のきつねうどんを知りたいなら、訪ねるべきは道頓堀 今井です。しかも、食べるのに予約はいりません。道頓堀の川沿いに建つ本店は1946年の創業です。できれば11時30分の開店直後か昼下がりに直接入り、きつねうどんを頼んで、出汁を最後まで飲み干してください。前もって予約するのは、うどん寄せ鍋などのコース料理だけです。
芝居茶屋から、一杯のうどんへ
今井が公開している歴史は、うどんよりはるか前から始まります。店の記録によれば、初代は1815年頃に奈良の今井町から道頓堀へ移り住み、1838年にはその一人娘「たけ」が中座の向かいで芝居茶屋「稲竹」を創業しました。この通りが大阪の芝居町の中心だった時代です。のちの代で茶屋の営業権を譲り、西洋楽器を扱う「今井楽器店」を開きます。店の語るところでは、道頓堀のジャズの大流行とともに商いを伸ばしました。
1945年の大阪大空襲で一家は焼け出されます。1946年に道頓堀へ戻った今井寛三と妻のマチ子は、暮らしを立てるために売れるものを売りました。夏は寒天や氷水、秋からはぜんざいや焼き栗です。その傍らで内緒で出しためん類に客がつき、商いはそばとうどんの店になっていきました。店は、マチ子が数年をかけて探し求めた出汁を1949年に完成させたとしており、1956年に法人化しています。玄関の柳は、一家が監修する歴史サイトによれば、建物がまだバラックだった1946年に植えられたものです。2002年には火災が本店に及びましたが、店は立て直し、今に続いています。
大阪のうどんは何が違うのか
大阪と東京がうどんで張り合うとき、話はたいてい出汁に行き着きます。関東の一般的なつゆは鰹節と濃口醤油が中心で、濃い茶色をしています。大阪は昆布を土台に出汁をとり、淡口醤油で味を調え、淡い黄金色でほとんど澄んだ一杯に仕上げます。色が淡いからといって味が薄いわけではありません。淡口醤油は色こそ淡いものの塩分は濃口より高く、味はしっかりありながら控えめで、昆布の旨味が一杯を支えます。農林水産省の「うちの郷土料理」も、大阪のきつねうどんの出汁を、真昆布と鯖節などの雑節を主としたものと説明しています。
麺も出汁に寄り添います。同じ資料は大阪のうどんを、太すぎず、もっちりとした食感と説明しています。麺が出汁と張り合うのではなく、出汁を受け止める形です。
今井の出汁は、その好例です。北海道道南産の天然真昆布を時間をかけて沸騰させ、弱火で小一時間ほど煮出します。昆布を引き上げたあと、細かめに削ったさば節とうるめ節を1対2の割合で加え、素材には宗田鰹も挙げられています。仕上げは八升釜、およそ14リットルの釜で行います。
きつねうどんの始まり
きつねうどんは、甘辛く炊いた油揚げを一枚、素うどんにのせたものです。「きつね」という名は、稲荷神社の使いである狐と油揚げの古い結びつきから説明されるのが一般的です。
もっともよく引かれる発祥の話は、今井とは別の大阪の店のものです。農林水産省は、船場のうどん店「松葉家」(現・うさみ亭マツバヤ)で、添え物として出した油揚げを客が素うどんにのせて食べたことが始まりといわれる、とし、その年を明治26年(1893年)としています。一方で同店の日本語版ウィキペディアは諸説あると記し、今井自身の年表は、油揚げをうどんに入れる工夫を1877年、甘辛く煮た油揚げ入りのきつねうどんの登場を1894年以降としています。穏当な読み方は、松葉家がもっともよく知られた説を持ち、半世紀後に創業した今井はこの料理を考案したのではなく、もっとも名高く受け継ぐ店のひとつになった、というものです。
今井で頼むもの
まずはきつねうどんです。店はこの一杯を、ほどよい甘さのお揚げ、昆布と節の出汁、もちもちのうどんの三位一体と表現しています。本店の公式ページでは、2026年9月時点で税込930円です。出汁は飲み干してください。この店がある理由そのものです。
その先の品書きも、じっくり読む価値があります。天ぷらうどんは、特大の海老一尾と青ねぎだけの潔い一杯で、揚げ方の工夫は楽器店の主人だった代にさかのぼると店は伝えています。ほかに鍋焼うどん(本店で1,850円)、吸い物付きの親子丼(1,500円)、にしんうどん、そばを好む方には毎月替わる季節そばもあり、2026年9月の本店は甘鯛と松茸の「若狭むしそば」を案内しています。品書きと価格は店舗や季節によって異なると店は記しています。
行く時間と、唯一予約できる食事
本店の営業は11時30分から21時30分まで、公式の店舗ページではラストオーダーが21時、お鍋料理のラストオーダーは19時30分です。定休日は水曜日(祝日の場合は営業)と、12月を除く毎月第4火曜日です。地下鉄御堂筋線なんば駅から歩いて5分ほど。営業時間は変わることがあるので、出かける前に店舗ページをご確認ください。
うどんに予約はなく、直接入ります。店内は広く、食べログによれば138席あるため、昼のピークや夜に列ができても、たいていは進んでいきます。空いているのは開店直後と、通し営業の昼下がりです。
例外はコース料理です。本店の食べログ掲載情報は、予約は前日までに、寄せ鍋などのコース料理でお願いしている、としています。看板は本店で一人前5,500円のうどん寄せ鍋で、野菜に焼穴子、椎茸の旨煮、粟麩、湯葉、鶏肉、車海老などを合わせ、店によれば主役のうどんは締めではなく一緒に味わうものです。予約は店へ直接、日本語の電話(06‑6211‑0319)か、公式サイトの専用用紙を使ったFAXで申し込みます。メールでの予約は受け付けていません。
大阪の夜の計画へ
今井は大阪の旅でいちばん易しい一軒です。電話はいらず、時間を選ぶだけです。大阪の夜を形づくる割烹カウンターは事情が異なり、席の多くは日本語の電話で動き、一部をオンラインで開ける店もあります。道頓堀から歩いてすぐの法善寺横丁にある浪速割烹 㐂川は、日本語の電話か一休で予約でき、通常は数週間前で間に合います。難しい店の席の出方については大阪の名店を予約する方法を、現実的に押さえられる店については本当に予約できる大阪の名店をご覧ください。
海外からはかけられない日本語の電話が必要な夕食があれば、予約フォームからご依頼いただけます。ご依頼は無料です。席を仮押さえできたらご承認をお願いし、手数料はご承認いただいた後にのみ発生します。きつねうどんには、そのどれも必要ありません。11時30分に柳の前を通り、そのまま店に入ってください。

