食を求めて旅する人は、誰もが東京、京都、大阪を訪れます。けれども北へ足を延ばす人は、ほとんどいません。だからこそ北には、ゴールデンルートが失ったものが今も残っています。電話で予約する一日一組の宿、収穫の地でそのまま出される料理、そして町そのものを支える料理店です。東北は日本のどこよりも綿密な計画が必要な土地ですが(まさにそのために私たちのデスクがあります)、かけた手間には十分に報いてくれます。
第一区間 — 遠野:発酵をめぐる巡礼
新幹線で新花巻へ、そこから一両編成のローカル線で山あいへ入ると、民話のふるさと遠野に着きます。ここにとおの屋 要(店のページ参照)があります。築二百年の米蔵を改装した、一日一組だけの宿です。佐々木要太郎さんが自ら米を育て、スペインの名店ムガリッツでも注がれたどぶろくを醸し、本人が「時間そのものを食べる」と呼ぶ料理を作ります。予約は二か月前に開き、すぐに埋まります。この予約が旅の要になるため、私たちはまずこれを押さえ、その日付を軸にほかの予定を組み立てます。
第二区間 — 気仙沼:すべてを勝ち取った港
東へ約二時間、日本一のサメの水揚げを誇る港町です。2026年には、ここにある気仙沼 KUROMORI(店のページ参照)が「Destination Restaurant of the Year」に選ばれました。港町の八席で出されるのはフカヒレ料理です。この港の早朝の魚市場は、生鮮カツオの水揚げで28年連続日本一を続けてきました(2025年の不漁で記録は途切れました)。唐桑の牡蠣の養殖いかだ(10月〜5月)や、旧気仙沼向洋高校の校舎を残した震災遺構も合わせて訪ねれば、この町の歩みとともに夕食を味わうことになります。
第三区間 — 庄内:ユネスコ食文化創造都市
日本海側へ移ります(快適なのは、いったん東京へ戻り、羽田から一時間の空路で庄内へ入る道です)。二泊の拠点は、坂茂さん設計の木造ホテルスイデンテラス。水田に浮かぶように建っています。ここから、奥田政行さんが六十種の在来野菜を軸にイタリア料理を築いたアル・ケッチァーノ(店のページ参照)へ夕食に出かけます。満月の夜は照明を落とし、月の光で食事をします。もう一日は羽黒山へ。2,446段の石段、国宝の五重塔、そして事前予約制の宿坊「斎館」でいただく精進料理が待っています。山の恵みを、信仰の行として調理する料理です。
訪れる季節
季節は二つ、旅も二通りです。秋(9月〜11月)は収穫の季節で、松茸、戻り鰹、黄金色の田んぼが楽しめます。真冬は雪国のどぶろく、鱈鍋、牡蠣の季節です。寒さも厳しさも増しますが、そのぶん忘れがたい旅になります。夏も楽しめますし、東北では混雑に悩まされることもほとんどありません。
現実的な回り方
東北の内陸と沿岸を結ぶ列車は遅く、本数も多くありません。遠野と庄内を陸路で一日のうちにつなぐのは現実的ではありません。おすすめは上に書いたとおり、二つの区間を東京から伸びる二本の枝として別々に組み、沿岸部では車と運転手を手配する方法です。とおの屋 要の予約は日本語の電話のみですが、KUROMORIはOMAKASE(英語ページあり)、アル・ケッチァーノはOpenTableでネット予約ができます。日本語での電話や日程のすり合わせは、私たちのデスクがお手伝いします。


