食材と季節2026年10月19日

麹と、和食を支える発酵

要点和食を和食らしい味にしているもののほとんどは発酵を経ており、その多くは麹を使っています。麹菌(アスペルギルス・オリゼー)は、2006年に日本醸造学会が「国菌」に認定したカビです。日本酒、味噌、醤油、みりんは麹から生まれ、納豆、漬物、鰹節、鮒ずしも発酵食品です。酒蔵、味噌蔵、そしていくつかの料理店で、産地ならではの発酵の味を体験できます。

和食を和食らしい味にしているもの⁠——控えめな味つけの奥にある旨味の深さ⁠——は何かと問われれば、答えは技術ではなく生き物です。日本が千年にわたって育ててきたカビで、2006年には日本醸造学会がこれを国菌に認定しました。

麹⁠——すべての出発点

麹は、蒸した穀物(主に米、ほかに麦や大豆)に麹菌(アスペルギルス・オリゼー)を付け、菌糸が一粒一粒に行き渡るまで約2日間温かく保ったものです。麹菌の酵素は二つの働きを同時にします。アミラーゼはデンプンを糖に、プロテアーゼはタンパク質をアミノ酸に分解します。この二つの働きが、日本の調味料のほぼすべてを支えています。

  • 日本酒⁠——同じタンクの中で、麹が作った糖を酵母が次々にアルコールに変える「並行複発酵」によって、日本酒はワインより高いアルコール度数になります。詳しくは日本酒ガイドに。
  • 味噌⁠——大豆、麹、塩、そして時間。麹に使う穀物で種類が決まります。全国で最も一般的な米味噌は、京都の甘い白味噌(西京味噌)から、東北などの塩気の強い赤味噌まで幅があります。九州と西日本の麦味噌。そして名古屋圏の豆(大豆のみ)味噌で、その最も濃い形である岡崎の八丁味噌は石で重しをして二年以上熟成させます。名古屋の料理全体がその上に築かれています。
  • 醤油⁠——豆と炒った小麦、麹、塩水、そして桶の中での数ヶ月。たまりは八丁味噌と同じ地域で生まれた、小麦をほとんど使わない濃厚な醤油で、大阪最古のおでん屋でも味わえます。
  • みりんと米酢⁠——甘さと酸味を、混ぜるのではなく醸します。みりんはもち米と米麹を焼酎に漬けて熟成させたもの、米酢は日本酒を酢酸菌でもう一度発酵させたものです。

ひとつのカビが、調味料の棚をまるごと支えています。ワインの文化がぶどうを育ててきたように、日本は微生物を育ててきました。

麹以外の発酵

麹を使わない発酵食品も数多くあります。納豆は麹ではなく納豆菌(枯草菌の一種)で発酵させた大豆で、朝食でおなじみの、よく糸を引く豆です。漬物の伝統は幅広く、何世代も受け継ぐ床を毎日かき混ぜる米糠の糠漬けから、京都の千枚漬けの蕪や、塩と時間のしば漬けにまで及びます。鰹節は、鰹を煮て燻したあと、カビ付けと天日干しを繰り返して作ります。カビ付けを重ねた枯節は世界で最も硬い食品の一つと言われ、削って和食を支える出汁になります。鮨の祖先も発酵食品です。なれずしは、魚を米に漬け込み、米が酸っぱくなるまで発酵させたものです。ふぐにも発酵の珍味があります。猛毒の卵巣を塩と米糠に何年も漬けて毒を抜いたもので、錬金術のような北陸(石川県)の名物です。

なぜ和食は微生物に頼るのか

発酵が生み出す最大のものは旨味です。酵素がタンパク質からグルタミン酸などを取り出し、バターも重い油も香辛料もほとんど使わない和食に、味の深みを与えます。味噌、醤油、出汁は旨味を凝縮したもので、だからこそ澄んだお吸い物一杯でも深い味になるのです。和食は全体として、味の複雑さを微生物に任せ、料理人の手間を精密な仕事に注いでいると言えます。

発酵を味わえる店

当サイトのコレクションには、発酵を脇役ではなく料理の主役にしている店がいくつかあります。

  • 琵琶湖の鮒鮓。 余呉湖のオーベルジュ徳山鮓(Tokuyamazushi)は、子持ちのニゴロブナを半年塩漬けにしたあと丸一年ご飯に漬け込み、蜂蜜と山椒を添えて出します。京都から北へ一時間の海津にある湖里庵(Korian)は1784年創業の鮒鮓の店で、長年使い続ける蔵に棲む微生物の働きで、ひと仕込みに二冬かかります。鮒ずし懐石では、パスタから締めの茶漬けまで、鮒ずしを十品ほどに仕立てます。どちらも予約は電話のみで、かなり先まで埋まっています。当デスクが電話をおかけしますが、お約束できるのは予約の試みまでで、席の確保はお約束できません。
  • 東北の農家の蔵。 岩手県遠野のとおの屋 要(Tonoya Yo)では、農家であり醸造家である主人が在来種の米を育て、自ら免許を取った醸造所で、清酒より古い歴史をもつ濁り酒どぶろくを醸し、それに合わせて熟成肉や発酵させた山菜のコースを出します。1日1組限定で、予約は各日のちょうど2か月前に受け付けが始まります。
  • 大徳寺の寺の厨房。 大徳寺一久(Daitokuji Ikkyu)は550年以上にわたり大徳寺の門前で精進料理を作ってきました。店先では大徳寺納豆(糸を引く納豆ではなく、夏の日差しの下で塩とともに発酵させた大豆)を売っており、これだけは予約なしで買えます。
  • 百年の糠床。 東京の鰻の店江戸川 石ばし(Edogawa Ishibashi)では、注文から鰻が届くまでの約1時間を、百年以上続く糠床の漬物と日本酒で過ごします。
  • 沖縄の豆腐よう。 那覇の琉球料理 美榮(Mie)は琉球の宮廷料理のコースを豆腐よう(泡盛と紅麹でチーズのように濃厚に発酵させた豆腐)で締めくくります。ほんの少しずつ口に運ぶ珍味です。
  • 味噌が形づくる街の味。 札幌の味の三平(Ajino Sanpei)は1950年代に味噌汁から発想して味噌ラーメンを生み出し、両国のももんじや(Momonjiya)は1718年から猪を味噌の出汁で煮込んでいます。

酒蔵の楽しみ方

酒蔵は発酵文化に触れる最も身近な入口で、少し準備しておくとずっと楽しめます。

  • 麹室について尋ねる。 麹室は米に麹を植えつける、杉張りの温かい部屋です。蔵の心臓部で、多くの見学では少なくとも入口までは案内してもらえます。麹室について尋ねると、酒造りの要を理解していることが伝わります。
  • 暦を読む。 酒造りは冬の仕事で、その年の酒は時期をずらして順に出てきます。搾りたてのしぼりたてがおよそ12月から2月、火入れしない生酒が春を通して、そして春に一度火入れして夏を越して寝かせたひやおろしが秋に出ます。軒に吊るされた緑の杉の玉、杉玉は新酒ができたことを告げ、年が進むにつれ茶色くなります。
  • その土地らしい酒を頼む。 どの地域にも特色があり、多くの蔵では純米から大吟醸まで飲み比べができます。精米歩合の違う酒を一度に比べると、ラベルを読むよりずっと多くのことがわかります。
  • 行き先。 北陸は酒蔵の多い地域です。富山・岩瀬の御料理 ふじ居がある古い町並みには酒蔵もあり、金沢からは能登や白山の酒蔵にも足を延ばせます。北のもう一つの酒どころが東北です。

日本酒のほかにも、岡崎の八丁味噌の蔵や小豆島の醤油の木桶蔵が、数百年続く蔵を公開しています。市場の漬物の樽も、発酵文化を静かに伝えています。当社の旅程には、食事の合間に酒蔵や発酵食品の蔵元を訪ねるものもあり、料理とその背景にある発酵を一続きで体験できます。

よくある質問

麹とは何ですか?

麹は、蒸した穀物(通常は米、ときに麦や大豆)に麹菌(アスペルギルス・オリゼー)を繁殖させたものです。麹菌は日本で千年ほどかけて人の手で育てられてきたカビで、2006年には日本醸造学会が「国菌」に認定しました。麹菌の酵素はデンプンを糖に、タンパク質をアミノ酸に分解します。これが日本酒、味噌、醤油、みりん、米酢づくりの第一歩です。和食にとっての麹は、パンやワインにとっての酵母のような存在です。

日本の発酵食品にはどんなものがありますか?

まず、基本の調味料がほぼすべてそうです。醤油、味噌、日本酒、みりん、米酢はいずれも麹を使った発酵食品です。そのほか、納豆、多彩な漬物、鰹節(燻したあとカビ付けして熟成させた鰹で、出汁の要)、鮒ずしなどのなれずし、塩辛、沖縄の豆腐よう、近年人気の塩麹などがあります。伝統的な和食の献立では、ほとんどの品に何らかの発酵食品が使われています。

なぜ日本料理で発酵がそれほど重要なのですか?

旨味を生み出すからです。発酵の過程で酵素がタンパク質を遊離アミノ酸、とくにグルタミン酸に変えます。バターを使わず、油も香辛料も控えめな和食では、この旨味が味の深みを担います。味噌、醤油、出汁は旨味を凝縮したもので、シンプルな料理にも深い味わいを与えます。和食は、味の複雑さを微生物に任せている料理だと言えます。

旅人は日本のどこで発酵文化を体験できますか?

産地で体験できます。全国の酒蔵が試飲や見学を受け付けており、とくに北陸と東北は酒蔵が豊富です。数百年続く味噌蔵や醤油蔵(岡崎の八丁味噌、小豆島の醤油の木桶)も蔵を公開しています。発酵を料理の主役にする店もあり、琵琶湖の鮒ずしの店、東北の農家民宿のどぶろく、大徳寺門前の精進料理などがその例です。朝の市場で漬物の樽や鰹節を削る様子を見て回るだけでも、発酵を知るよい機会になります。

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