日本の季節にはそれぞれを代表する魚があり、秋の魚は名前の漢字そのものが秋を名乗っています。秋刀魚、「秋の刀の魚」です。11月の蟹や1月の寒鰤と同じく、単なる食材ではなく季節の行事のような存在で、各地の焼き網から立ちのぼる煙が夏の終わりを告げます。
旬の時期
- 9月〜11月。群れは北海道沖から東北の三陸海岸沿いを南下します。
- 走りが最良: 最初の水揚げ(初さんま)が最も脂がのっており、根室・釧路・大船渡などの港が初競りを競います。
- 12月には身が痩せ、旬は過ぎます。秋刀魚の旬は待ってくれません。
一年を通した魚の旬は鮨ネタの季節カレンダーをご覧ください。
地元流の食べ方
定番は秋刀魚の塩焼きです。一尾丸ごと塩を振って皮がはじけるまで焼き、たっぷりの大根おろし、半分に切ったすだち、醤油を添えます。食べ慣れた人の心得は二つです。
- はらわたも食べる。 はらわたのほろ苦さこそが醍醐味で、欠点ではありません。大根おろしとすだちは、その苦味を引き立てるために添えられています。
- 新鮮なら刺身で。 港町では、その日に水揚げされた秋刀魚が刺身で出ます。銀色の皮と琥珀色の身の、産地以外ではまず出会えない一皿です。
関西には三つ目の食べ方があります。秋刀魚の押し寿司です。酢で締めた秋刀魚を酢飯に押したもので、和歌山など紀伊半島の名物です。
落語になった魚
秋刀魚は、落語の演目になった珍しい食材です。『目黒のさんま』は、殿様が目黒で炭火焼きの秋刀魚の素朴なおいしさを知り、以後「さんまは目黒に限る」と言い張る噺です。海のない目黒を名産地のように言うところが笑いどころです。この噺にちなんで、例年9月には目黒の祭りで何千尾もの秋刀魚が焼かれ、振る舞われます。
厳しい現状
ただし今は、手放しで楽しめる状況ではありません。この十年で漁獲が急減しました。海水温の上昇で群れが沖合へ移り、公海の漁船団が日本近海に来る前に獲ってしまうためです。かつて1尾100円ほどだった大衆魚は初秋のちょっとした贅沢になり、走りの脂ののった秋刀魚はイベントのように売れていきます。秋刀魚を旅の目的にするなら、9月末〜10月を狙い、行程が許す限り北で食べましょう。東北の海岸は寄り道する価値があり、周辺には観光客がまだ少ない、食の豊かな地域が広がっています。
秋の旅に組み込む
秋刀魚は北の秋の旅程に自然に収まります。三陸の港で秋刀魚そのものを味わい、周辺で東北の食を楽しみ、帰りに東京の居酒屋の秋の献立を。その道中でコレクションに載っている店を旬のピークに合わせて予約したいときは、日程をお知らせください。